人情喜劇   芝浜 2019             作・演出  辻 三太郎

魚屋の金助は娘の 春と二人暮らし、女房のおゆうが3年前に死んでから仕事をせずに酒に溺れる日々であった。

ある日、金助が酔っ払って家に帰って来ると、其処に大家と御茶屋の女将が待っていた。
春「お父っつあん!家にはもうお金が無いの、大家さんが柳橋の御茶屋さんのとこなら、いいお金で私を雇ってくれると言うの」「ばかな事言うじゃねえや!オメエは足が悪いんだ、働くなんてとんでもねえ、おい大家、それに女将さんよ、とっとと帰えってくれ!」

仕方なく金助は魚河岸に働きに行くのだった。
浜で休んでいると波打ち際で足に紐が絡んできた、よくみると汚ない財布!
中を確かめると小判が!

慌てて帰って来た金助!財布の中身を見ると、48両と言う大金が入っていた!

金助喜んで長屋の連中を集めてドンチャン騒ぎ

飴屋の夫婦も酔っ払ってひと躍り。

そこに高利貸しの阿曽鱈衛門が

「金助、オメエに貸した2両の金払って貰うじゃねえか!」
「鱈衛門さん、今日は立て込んでるんだ。明日二人きりの時に来てくれ。その代わり2両を3両にしてお返しますよ。」

長屋の連中、金助が大金を持っているのに、びっくり!
「金さん!随分金を持っているんだね!」
「ねえ、私に金を貸してくれないかねぇ!」
「俺は今、金欠なんだ、一両貸してくれねえかね!」
「家の息子が今度所帯を持つんだよ、金が要りようなんだよ!」
等々。
「うるせいな!金金って、やだねぇ貧乏人は、俺は金は貸さねえよ!」

翌日、寝ている金助に娘の春は

「お父ちゃん、ねえ、たのむよ、起きて働きに行っておくれよ、家にはお金が無いんだよ。」

「なに寝ぼけた事をいってるんだ、家には腐るほど金があるんだ。」

「オメエに昨日渡しておいたろ、浜で拾った48両が入った財布。」

「何?その48両の財布って?お父ちゃん酔っ払って変な夢でもみたんじゃないの。」
「なんだ!夢だ!バカいってんじねえよ。夢であろうはずがねえじゃねえか!」

「あ、分かった、オメエなんだな、あの金を独り占めにしようと思ってるんだな!」

「おい、春、いくら親子でもそんな卑しい事考えちゃいけねえぞ!」

「お父ちゃん、私、そんな事をするわけないじゃないの。」

其処に隣の飴屋のカミさんが

「なんだい金さん影で聴いてりゃ、自分の娘を泥棒呼ばわりするなんて!」

「お前さんは変な夢をみて、大事な娘の春さんに罪を被せようとするなんて、」

「何時からそんな非道の人間になってしまったんだい、私や許せないよ!」

「さあ春さんこんな家にいちゃァダメだ、うちにおいで!」

其処に女房の幽霊が出て来た、
「恨めしい~。ちょっとお前さん、いいかい春が嘘なんかつくわけないだろ!」

「お前さんはなんだい、私が死んだら急に仕事もしないで酒ばかり呑んで、」

「いいかい、今の世の中に48両なんてそんな大金が入ってる財布が落ちているわけないじゃないか。」

「そんなくだらい夢なんか見て、お前さんちやんと仕事しなくちゃだめじゃないか!」

「お前さん春の言っている事が信用出来ないのなら私の世界に連れていくよ!」
「母ちゃんそれだけは勘弁してくれ!」

「母ちゃんまでがあの世界で俺を心配してたんだ!あ~ァ!」

「俺は酒ばかり飲んで、金が欲しい金が欲しいと思っているから夢と現実の区別がつかなくなってしまったんだ!」

「よ~し、此から一生懸命働いて春の為に金をのこそう!」

其処に高利貸しの阿曽鱈衛門が来た

「金助、きたよ。」

「鱈衛門さん、ごめんなさい金が有るとおもったら、あれは夢だったんです、金は一文もないんです。」

「ばか野郎、金がねえぇ!ふざけるな!許さねえ代わりにオメエの身体を貰うぜ。」
「貰うって親分私はその趣味はないんです。」
「うるせえ、オメエがなくてもこっちがあるんだ。」  「親分、それだけは勘弁して!」

それから3年の歳月が立ちました。金助は死に物狂いで働き、身代を残した大晦日の日。

春が「お父ちゃん!私お父ちゃんにどうしても謝らなくてはならない事があるの。」

「私、一世一代の嘘を付いてしまいました。」

「3年前のあの日、48両が入った財布、あれは実は夢ではなく本当の事だったのです。」

「え!なんだって!夢じゃねえ。」

「はい、あのときお父ちゃんは、これから働かないで一生お酒を呑んで呑んで暮らすんだと言っていたの、私、それで大家さんに相談にいったんです。そうしたら大家さんは、あの金を猫ババでもしたら金助は間違いなく打ち首獄門になるぞと聴かされて、私その足で番屋にお金をあずけにいったんです。それから一年立って持ち主があらわれなかったので、あの財布私が預かっていたのです。お父ちゃんごめんなさい、あの時の48両が入った財布、それはこれです。許して下さい。」
「そうかい、そうだったのか。それじゃオメエがお父ちゃんの命をすくってくれたのか、打ち首獄門にならなくてすんだんだな。春、ありがとうよ、オメエに感謝しても感謝しきれねえや。」

「お父ちゃん私、お父ちゃんにどうしてももうひとつ話さなくてはならないことがあるの、」

「なんだい、この際なんでも言ってくれ」   「私半年前から付き合っている人がいるの」

「え、誰だいそいつは」   「新橋の呉服屋の若旦那」

    「新橋の呉服屋と言えば、あのキムラヤの卓坊か!」   「えぇ」

「そうかい、そりや良かった、俺は嬉しいぜ、これで俺のの肩荷がおりた。」

「あ、そうだ、死んだお母ちゃんが俺のとこに来たときに着てきた花嫁衣装があるんだ。」

「これを着て嫁に行け、母ちゃんよろこぶぜ。」

「よーし、オメエの結婚式の前祝いだ、オメエと二人で乾杯しよう!」  「お父ちゃんはお酒やめたんじゃないの。」
「ちょっとだけ口をつけるだけだい。」

「オメエの幸せの門出だ、乾杯!あら、こんなに注いじゃったい。」

「お父ちゃん、ダメだよそんなにたくさん飲んじゃ!」

「いやぁ~こんなにうまい酒は生まれて初めてだ。よし、駆け付け三杯とくら、あぁ!」

「酔っ払っちまったい!おい春、こんな旨い酒お父ちゃん生まれて初めてだ。」

「おい、春、父ちゃんこれから酒を呑んで呑んで飲み続けるぜい!」    「お父ちゃん、やめてやめてよ!」

「あぁ!こりゃ、えらいこっちゃえらいこっちゃよいよいよい!とくりゃ!」

全員出て来て、 えらいこっちゃえらいこっちゃよいよいよいヨイ!